『またね。』
最終話
【佐倉鈴side】
「ママー」
「なあに、光」
私は23歳になった。
今年4歳になる娘が居て、毎日幸せの中にいる。
光の父親はまさか、あれから付き合うなんて思ってなかった磯ヶ谷武瑠。
…そう、輝をいじめてた人ね。
「公園、行こ。」
光は公園で遊ぶことが好きだ。
私も、公園に行くことは好きだ。
…ここに来れば…

「こーら、輝!」
光と同い年の小さな男の子。
名前は、私の大好きな人と同じ。
顔も、輝とそっくりなの。
本当に、輝の生まれ変わりの子なのかもしれない。
「あ、ひーくん!」
「ひーちゃん!」
…輝と光。
同じような名前。
「…あ、危ないよ。輝!」
「大丈夫だよ、鈴。」
…え?
鈴って呼ぶのは…
私の…大好きな人だけ…なのに…
「…僕、約束は守るよ。」
輝は私の目をしっかり見つめてそう言った。
…約束って…
“いつでも鈴のそばに居るよ。”
…姿形が変わったとしても…
いつだって輝は優しく見守っててくれる優しい月だもんね。
私は輝の言葉に思わず号泣してしまった。
「磯ヶ谷さん、大丈夫ですか?」
「…大丈夫です。」
輝のお母さんが私に慌てて駆け寄る。
…うん、大丈夫。
私はちゃんと前を向いて生きてるよ。
輝が描いてくれた私の絵は、今家にある。
輝の家にあったあの絵は今、美術館にあるよ。
『ジュニアコンクール優勝者最後の絵』
だって。
…私の家に置いてあるより、みんなの目につく方が輝にとっていいかなって思ったの。
輝は嫌がるかもしれないけど。
私はあれから退院して、輝の家に行った。
…何かあるかもしれないって思ったから。
…でもあったのは輝が描いてたあの絵だけで。
輝の私物は何ひとつとして残ってなかった。
…輝が大切にしていた、絵を描くセットも。
学校で絵を見た時は泣いちゃった。
私を描いてくれたのに私じゃないみたいで。
でもこんな顔してたんだって思えて。
自分じゃないみたいに凄い、キレイだったから…
輝には私がこんなにキレイに見えていたんだって嬉しくなっちゃった。
…ダメだね。
輝が心配するから、もう泣かないって決めてたのに、また泣いちゃった。
私こんなに泣き虫の弱虫だったんだね。
「…」
…もう、大丈夫。
長いこと見守っててくれてありがとう、輝…
もう、心配しなくても大丈夫だよ。
もう私は、前を向いて生きていける。
…輝が約束を果たしてくれたから。
輝がくれた大切な命。
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