生簀の恋は青い空を知っているか。

「菊池に何かされたのか?」

声色を変えてそう言われたので、必死に首を振った。

「違います、全然違います」
「は? 君泣いてたのか」

浅黄さんが部屋に入ってくる。
何かを勘違いしたまま。

「まつげが目に入っただけで……」
「よし見せて見ろ」
「や……やだ!」

顔を思いっきり背けてしまった。浅黄さんの手が一瞬止まり、わたしの顎は掴まれた。

浅黄さんの顔と向き合わされる。
綺麗な顔と目元。一周してそれに腹が立ってきた。

認める。わたしは過去に妬いているんだ。

代わりもしない過去に妬いて、それを今の浅黄さんに八つ当たりしている。

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