生簀の恋は青い空を知っているか。

首を動かすと身体全体が軋んだ。

「松葉?」

わたしの顔を覗き込んだのは、お兄ちゃんでも浅黄さんでもなく、母だった。

返事をするより先に、母が視界からいなくなる。
少し経って、看護師さんと医師を連れてきた。

病院からの帰り、わたしは信号無視した車に撥ねられたらしい。
目撃した人が救急車を呼んでくれた。

それから丸一週間、眠ったままだったという。

確かに、日付は年末にむけて一週間近づいていた。

「夜は浅黄さんがずっとついていてくれたのよ」

泣きそうな顔で母が言った。ああ、そうだ。確かにあの声は浅黄さんだった。

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