生簀の恋は青い空を知っているか。

ぽちゃん、とどこからか音がする。その方向に目を向けると、見知った背中。

お兄ちゃんだ。
お兄ちゃんがいる。

手を伸ばす。久しぶりにその姿を見た気がした。
そんなの気の所為だ。だってさっきまで一緒に鯉を見に来ていたから。

だから……。

さきほどの青い鱗の鯉がわたしの前を横切る。

「松葉」

名前を呼ばれる。お兄ちゃんは振り向かない。
じゃあ誰が呼んでいるのだろう。

「松葉、戻ってきてくれ」

きらきらと、青い鱗が綺麗だ。









目を覚ますと、呼吸が熱かった。

誰かが何かを話している声。さっきまでは無かった雑音が耳に入ってくる。

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