生簀の恋は青い空を知っているか。

キプリナスホテルを背負う俺の前で、シンボルとなっている鯉を嫌う人間はいなかった。
どう口を滑らせても、そんなことを言う人間もいなかった。

俺自身が一番嫌いだったわりに。

「そうですか? 鯉の滝登りって言いますし、龍になる前の姿だと思いますよ。そんなに嫌わなくても」
「は?」
「どこまで泳いでいくのか、わたしは見てみたいですけどね」
「たかが知れてるだろ、それに」

鯉は滝登りはしない、と続けようとしたけれど、女の視線がこちらに向いていた。

溺れないように、必死だった。
飼い殺しだと誰かに言われた。
親の敷いたレールの上は、自分や他人が思うよりずっと、息苦しくて。

< 327 / 331 >

この作品をシェア

pagetop