花時の贈り物
目の前にいる瀬川くんの瞳には私は映っていない。
瀬川くんだけじゃない、采花もクラスのみんなも、家族でさえも、私の姿をもう見ることはできない。
「後悔したって遅いのに……ごめん、悠理」
「でも今知れたよ。ありがとう、瀬川くん」
彼には届かない私の言葉。
切なくて苦しくて、温かくて。どうしようもなく愛おしい告白。
体育祭の日の放課後で終わった私の短い人生は、今になって思えばとても幸せなものだった。
体育祭のあと、クラスのみんなで打ち上げをすることになっていた。夕方に指定されたお店に集合する約束だったけれど、私だけはお店につくことはなかった。
反転する視界の中で、横断歩道の青い光が点滅するのが見えた。
今でも車のブレーキ音と近くにいた誰かの悲鳴が耳の奥に残っている。
この身体ではあの日の事故の痛みは思い出せないけれど、意識が途切れる直前に思い浮かんだのは家族や友達のこと。もちろんその中には瀬川くんも采花もいて、私には心から大事な離れがたい人たちがいたのだと実感した。
それと同時に、三人での関係を壊してしまったことを酷く後悔した。
「悠理……っ」
瀬川くんの髪にそっと触れる。けれど、彼は気づくことなく涙をこぼしていく。
「ごめん、悠理。俺……なんでもっと早く……っ」
もういいよ。大丈夫。私は今聞けたから幸せだよ。空気に溶けて消えていく私の言葉が歯がゆくて、瀬川くんの涙が床に弾けた。
涙を拭ってあげたいのに、拭うことができない。