花時の贈り物
「あのとき、追いかけるべきだった」
「……瀬川くん、もういいんだよ」
いつのことを言っているのかわかっている。体育祭の前日に私が告白をして逃げたときのことだ。
「ずっと言えなくてごめん」
「私はもう……」
この先の言葉が出てこない。もう私は言えない。
瀬川くんが謝ることじゃないんだよ。だから、そんなに苦しまないで。
そう笑いかけて後悔をなくしてあげたくても、それができなかった。
瀬川くんの大きな手が、机の上に置かれた花に触れる。
「好きだったんだ」
その言葉は優しく私の心に触れて、切なさを残して通り過ぎていった。
「悠理から告白されたとき、驚いたけど嬉しかった。明日返事をすればいいって思ってて、あのとき追わなかった」
あれは逃げてしまった私が悪い。あの場で返事を聞いていたら、一瞬でも私は瀬川くんの彼女になれていたのかな。けれど、采花の顔が浮かぶ。
もしも付き合えたとしても、きっと采花とは気まずくなってしまっていた。
自分のことばかりだった。瀬川くんの気持ちや采花の気持ちを考えていなかった。
謝るべきなのは私の方だ。
「体育祭のあとでいい、打ち上げのあとでいい。帰り道で返事をしようって先延ばしにしてた。だから思いもしなかったんだ」
瀬川くんの表情に影が落ちる。
その影を今の私には掬い上げることはできない。
「もう二度と会えなくなるなんて」