彼の愛した女(ひと)は?

「でも脳死だって、心臓があれば意識を取り戻すかもしれないでしょう? それを、脳死が判って、ドナー登録者だって分かったから。お金の力で無理やり、順番を無視して自分の娘に移植させたのよ! 」

「そんな事はないと思う。心臓移植は、適合しなければ移植はできないはずだ。いくらお金を積んでも、無理やり移植させる事なんてできるはずはない」

「じゃあ先生は聞いてる? 柊さんから、先生の恋人の心臓をもらった事。ちゃんと聞いている? 」

「それは聞いていないが」

「言えないのよ! 無理やり移植を優先させたから。先生の恋人を殺したから、言えないのよ! 」


 静流は頭が混乱した。

 ミルが言う事は大げさに言われていることは分かる。

 無理矢理に移植をしたなんて事実はきっとない事は分かる。

 だが。

 柊はいつも、どこか一線引いている。

 名札を届けに行った時も、なんだか怖がっていると言うか避けていた。


 三ヶ月だけ付き合ってほしいとお願いした時も、期間限定ならと言って承知してくれていた。

 
 どこか悲し気で、一線引いているのは。

 もしかして恋人の命を奪ってしまったと、罪悪感を感じているからなのだろうか?


「先生、騙されないで下さいね。お金持ちは嘘つきが多いの。私の元旦那もそうだったの。お金持ちで裕福だったけど、嘘ばかりついて。最後には、よそに女を作ってその女を選んだの。私と付き合う前から、関係が合ってずっと私の事を騙していたわ。関係がバレちゃったら慰謝料なんて言って、大金で全部なかった事にして終わるの。先生も、そのうち同じことをやされるわよ」

「それは、決めつけすぎだ。彼女はそんな人じゃない」

「先生は知らないだけよ。あの女の本性を」


 ミルは柊の事を酷い女だと主張して引かなかった。


 とりあえず静流は聞いた話を保留して、少し考える事にした。
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