彼の愛した女(ひと)は?

 父のお墓に綺麗なカスミソウが生けてあった。

 カスミソウは静流の父・清流(せいりゅう)の大好きな花だった。

 
 そしてもう一つ驚くことがあった。


 それは。

 
 海の見える綺麗な墓地にやってきた静流。


 白い十字架の前にやって来た静流は驚いた。

 そこには綺麗なバラの花が生けてあった。

「このバラは・・・」


 十字架の前には北郷零(ほんごう・れい)と書いてある。

 享年21歳と書いてある。


 静流はそっと手を合わせた。


「あら、静流さん」


 声をかけてきたのは60代くらいの女性。

「あ、お母さん。お元気そうですね」

 ほっそりした顔で朗らかな表情の女性は、零の母親で北郷玲子(ほんごう・れいこ)

 穏やかな性格で一緒にいるとほっとさせられる女性だ。

「もう静流さんったら、お母さんなんてもう呼ばなくていいのよ。零の事だって、もういいのに。静流さんも、新しいスタートを切ってほしいのよ」

「分かっていますよ。今日は、零に報告に来たんです。やっと前を見る事が出来る人に、巡り会えたので」

「本当? 良かった。心配していたのよ、もう7年だもの」

「はい。ここに来なくなっても、俺には零は忘れられない人です」

「良い思い出として、覚えておいてくれればいいのよ。零も、きっと天国で幸せになっているから」

 
 北郷零は、静流と結婚の約束をしていた女性だった。
 
 短大を出てOLをしていた零。

 静流はまだ勉学に励んでいたが、無事に弁護士になったら結婚しようと誓い合っていた。


 だが零が21歳の誕生日を迎えた日、仕事の帰りに事故にあって亡くなってしまった。

 死因は脳死だった。

 ドナー登録をしていた零は、臓器を必要な人へ提供された。

 
 婚約者の死を受け入れられないまま、静流はとにかく弁護士への道を目指した。

 父親を早くに亡くして、母が一人で育ててくれた事もあり、早く一人前になり母を楽にしてあげたいと静流は願っていた。

 零との結婚も夢見ていたが、それは叶わなかった。
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