クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「素敵なキッチンですね」

「ええ、樫原専務が揃えてくださったんですよ」

「Ah.oui・・・。二人はそういう関係なんだ?」

吉崎の言葉に、シュー生地を作っていた白人がピクリと反応する。

睨むようなその顔は、威嚇しているロシアンブルーのようだ。

「ああ、ごめんごめん、からかうつもりではなかったんだよ。愛菓の可愛いdisciple(弟子)が睨んでる。怒られる前に、早速、僕も何か作らせてもらってもいいかな?」

吉崎は、ルイと共にキッチン裏の、事務室兼更衣室に入るとコックコートに着替えて来た。

「・・・えっ?その材料は・・・」

吉崎が取り出した材料に、愛菓は見覚えがあった。

「そうだよ。これは君のレシピ。可愛いGarçon(少年)に頼まれて同じものを作ってあげたんだけど、゛この味じゃない゛って拗ねられてね。本物を味わいたくてわざわざ日本に来たんだ」

32歳の吉崎が少年のように笑った。

そう、オークフィールドホテルの30周年記念のスイーツ世界大会で愛菓が米粉のお菓子を作ってあげた少年が、愛菓のレシピを渡して同じお菓子を作ることを依頼したのが゛マサキヨシザキ゛だったのだ。

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