クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「うん、確かに愛菓のシュークリームの方が美味しい。僕の準備した材料と愛菓の店の材料とは大差はないはずなのに、どこに差が出るのかな?」

吉崎は、愛菓と並んで同じ米粉のシュークリームを作った。

゛favori crème pâtissière ゛のオーブンは3つある。

そのうちの一つは、現在、予約されたお菓子のためにフル回転している。

残りの二つは、愛菓と吉崎がシュー生地作りに使用。

そうして出来上がった米粉のシュークリームは、並べられるとすぐに吉崎の口に運ばれていった。

愛菓のシュークリームの方が美味しいと潔く言える吉崎は男らしい。

侍愛菓としては、その吉崎の態度に好感が持て、敬意を表するに値すると思った。

例え、勝敗を賭け事に利用する輩だとしても、だ。

「それは誉め言葉だと捉えても?ありがとうございます」

と、お礼だけ述べて不敵に笑う愛菓は、侍宜しく丁寧にお辞儀をした。

「うーん、大会の当日の雲行きが怪しくなってきたな。思いの外手強そうだ」

吉崎は、苦笑しながら二つのシュークリームを見比べている。

「武士として挑まれた勝負は買うまで」

愛菓の言葉に

「僕だって負けられないんだ。Chevalier(騎士)としてprince(王子様)のご機嫌を損ねるわけにはいかないからね」

と、吉崎が呟いていたことはそこにいた誰にも聞こえてはいなかった。

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