クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
ショコラ、ボンボンの2部門の審査が終わり、後は、パティスリー部門を残すのみとなった。

書類審査を通過し、大会に招待されたのは5人。

しかし、実質はフランス代表のマサキヨシザキと日本代表の氷山愛菓の一騎討ちと見られている。

招待審査員は、公平を期すため、外部の人間に10人委託された。

その他、会場からランダムに選ばれた一般人審査員が10名。

彼らの投票が優勝者を決める。

和生は、ステージの袖から、決戦の舞台にたつ愛菓を見つめていた。

今日も愛菓は黒のコックコートに黒のパンツ、白いコックキャップを被っていた。

凛とした佇まいに冷たさを纏った表情は儚くも美しい。

気持ちを集中させているのか、じっと一点を見つめて動かない・・・。

訪れた観客もマスコミも愛菓の美しさに見とれているのがわかる。

和生が愛菓を見るのは4日ぶり。

出会ってから毎日顔を合わせていたため、ずいぶん長く離れているような気がした。

すぐ近くにいるのに、彼女の纏う空気は冷たく、何かに阻まれているかのように遠く感じる。

距離をおきたいと言ったあの日、愛菓にマサキヨシザキ側から何らかの揺さぶりがあったことは間違いない。

ホテルの人間が、吉崎の腹心であるlouisと愛菓が、ホテル近くのカフェで始業前に話をしているのを目撃している。

話の内容はわからない。

恐らくフランスへの移籍の件だろう。

だが、この大会の結果がどうあれ、和生は愛菓を手放す気はない。

和生は、愛菓のテーブルの隣で王子様の様にニコニコと笑顔を振り撒いているマサキヨシザキを見つめると、冷たい表情を更に冷たくして周囲を凍らせた。

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