同じ人を好きになるなんて
「なんであんなこと言うの?」
家に帰ると私は煮え繰り返るような思いで言いたかったことをやっと口に出した。
「あんなことって……君を妻と紹介したこと?」
「それ以外何があるって言うのよ。私は家政婦として雇われたのであって、奥さんじゃない」
すっとぼけちゃってなんなの?
頭から煙が出そうなほど怒りがこみ上げていた。
だが陸斗はいたって冷静だった。
「事前に言わなかったのは悪かったが、理人のことを考えたらこれが一番かなと思ったんだ。それに理人だって君のことをママって呼んでたじゃないか」
「いや、それって綱島さんが言わせ––」
「陸斗」
「え?」
「だから、保育園で夫婦ですって紹介してまったんだ。俺のことを名字で呼ぶのは不自然だ。陸斗でいい」
握りこぶしに力が入る。
なんでそうなるの?
「話が違うじゃない。なんでこんなことに?」
「仕方ないだろ?理人のクラスのほとんどが母親に送り迎えをしてもらっていて、理人はいつも指をくわえて見ているだけだったんだ。だからきっとまゆりが迎えにきてくれたことがすごく嬉しくてついママって言ったんだよ」
ちょっと母性をくすぐるようなことを言ったってその手には乗らないんだから。
そう思いながら視線を理人くんに向けるとニコニコしながら紙パックのジュースをすすっている。
やばい、この天使の笑顔に私は弱かったんだ。