君がキライなそのワケは
ふらつく身体を半ば無理やり立たされた。

「本当なら指輪もいるんだけどね。それは、ボク達が大人になるまで待っててね」

やや早口でそう呟いて、彼は再び私の手を引いた。

「ま、待って……なんで、私……」

混乱と湧き上がってくる感情。
それは紛れもない恐怖。

優しかったお兄ちゃんが知らない男に見える。
いつもなら穏やかに微笑む瞳は神経質そうに細められて、柔和な口元はいびつに歪んでいる。

「時間がね、無いんだ……ボク達には時間が」
「よ、陽太君?」

彼が私の肩を掴んで顔を覗き込んできた。

「ボクはずっと君を見ていた。欲しくて堪らなかったから。でも必死で抑えてきたんだ……でも、もう駄目だ。ボクは……ボクは……」

その言葉の間にも、彼の顔がこちらに近付いてくる。

「ちょっ……と、や、だ……やめてっ……待って」

キスされる、なんて私でも理解した。
強い嫌悪感と恐怖心で、必死に拒否しようとする。

「莉子、莉子、莉子……莉子」

私の名をブツブツと呟きながら、それでも彼の瞳には私の姿なんか映ってやしなかった。

「ヤダってば! 嫌……ッ」

顔を押し返そうとすれば、肩を抱かれて締められる。
痛くて怖くて涙が溢れてくる。

「や、だ……やめ、て……」

(フミオ……太郎さん……涼介)

助けてと心の中で叫んだ。
涼介のあのムカつく顔ばかり、頭に浮かんだ。

(私がバカだったんだ……)

「……なにしてるんだッ!!」
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