君がキライなそのワケは
それからは朝彼を見かけると私は声をかけるし、彼も声を掛けてくれた。

お互いそんなに喋る方でもなかったけど、他愛のない話をポツリポツリと交わして。
二人で電車乗って、同じところで降りて。
今日も頑張ろうな、って手を振って別れる。

憂鬱だった電車通学が楽しみになった。

「もうすぐ夏休みか?」
「そうですね。あー、しばらくこの朝の混雑に巻き込まれずにすみそうです」
「はは、そうだな……でも」
「……!」

ぽんぽんぽん、と頭を3回軽く撫でられた。

「俺は君にしばらく会えなくなるのが残念だな」

そう言って眉を下げて微笑んだ。
お世辞とか、揶揄いとかじゃあなくて本当にそう思ってくれているって思って嬉しかった。

「た、太郎さん。イケメンにそういう事にそういう事されると……その、困っちゃいますよ!」

その後誤魔化すように笑うと、キョトンとした顔される。

「……太郎さん、鏡見た方がいいですよ」
「? ああ、もしかして褒めてくれてるのか。ありがとう」

この人、少し天然なのかもしれない。
彫りは深くて男らしいイケメンなのに、たまに抜けている所がある。

よく「右」と言いながら『左』を指さしたり、言い間違いも良くする。
流行にも疎いみたいで流行りのアーティストにも首を傾げてる。

この前、自分の好きな曲を話す流れで『普段どんなの(曲)聞くんですか』って聞いた。

『隣に住んでる家の娘さんが下手なピアノを延々と引き続けて困っている』という話を大真面目に始めた。
ちなみに隣に娘さんもいないしピアノもない。
そもそも隣は空き家で誰も住んでないっていうオチで軽く戦慄した。

こうやってたまに会話成り立たない時があるのがまた面白い。
まさに『※イケメンに限る』なんだな、と思った。
< 5 / 32 >

この作品をシェア

pagetop