クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
「ベルグラーノ伯爵夫人」
考えに沈んでいると、張り詰めた声で呼びかけられた。
「はい」
「今の状態はあなたにとって辛いことと思います。しかしエルドラ王女殿下は近い内にヴァレーゼ王国を離れ遠国へ嫁ぎます。ほんのひと時のことでいずれは終わるのです。それまでどうか辛抱強く耐えて頂くよう私からもお願い申し上げます」
「…………」
リアナは直ぐに答えられずに、口を閉ざした。
侍女はリカルドとエルドラ王女の関係を今後も見て見ぬふりをしろと言っている。
(今知ったことを誰にも言わず、もちろんリカルド様を責めもせずに私の胸に秘めろってことなんだわ)
胸がぎしりと軋むようだった。
それでも嫌だとは言えない。
相手は王女でその命令は絶対だ。
もし騒いだところで誰もリアナに味方をしてくれないだろう。国の為に政略結婚で嫁ぐ王女の細やかな希望くらい叶えてあげろと諭される恐れもある。
「ベルグラーノ伯爵夫人?」
肯定の返事を促され、リアナは心ならずも頷くしかなかった。
侍女出て行って一人きりになりどれほどの時間が過ぎたのだろうか。
リカルドが慌てた様子でやって来た。
「リアナ、すまない」
彼はソファーに大人しく座るリアナを見て眉をひそめた。
「顔色が悪いな。気分が悪いのか?」
「いいえ、身体は大丈夫です……でも少し疲れてしまいました」
今の騒めく気持ちではまだリカルドを直視出来なくて、リアナはさりげなく目を伏せて答えた。
「直ぐに屋敷に帰ろう」
リカルドはリアナの身体を躊躇いなく抱き上げると、足早に部屋を後にする。
その間、リアナはずっと俯いていた。
「待たせて悪かった。本当に大丈夫か? 医者を呼んだ方がいいのではないか?」
気遣いが感じられる優しい声。それでも顔を上げられなかった。
「大丈夫です」
リカルドはリアナが体調が悪いと信じているようで、どうしたのだと追及していくることは無かったから助かった。
ベルグラーノ伯爵家の屋敷に戻ると、真っ直ぐ寝室に運ばれた。ベッドに入ると目を瞑りリカルドの視線から逃れ、宮殿での出来事は一切話さなかった。