ロマンスの王子様
奥原さんは何も言わずに朝食を食べた。

「それじゃあ、行ってくるよ」

カバンを手に持って声をかけてきた奥原さんに、
「はい、行ってらっしゃい」

私はコーヒーを飲みながら返事した。

リビングを後にした奥原さんを見送ると、マグカップをテーブルのうえに置いた。

玄関のドアが閉まった音が聞こえたのを確認すると、
「なーにが、“また今日も出かけるのか?”だ」

私は大きな声で言った。

「ええ、そうですよ。

お前さんと顔をあわせたくないから出かけるんですよ。

しかも、何じゃい。

それはそれは偉そうに、“早く帰ろうと言う気はないのか?”って!

全くもって、そんな気は一切ございません!

むしろ、私が遅く帰ってきた方がいいんじゃないんですかー?

嫁のこの顔を見なくて済みますからね!」

ぶつけることができなかった怒りを全て吐き出した。
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