Match maker


「はい」

そう言って田中さんがそれは見事にスルーして手を差し出して来た。



「え?」

「手、転けないように繋いでおこう。……あ、違う。繋ぎたいから。いい?」



彼はちゃんと“伝える努力”をしてくれている。

だから、私も……



「私、このチョコレートコスモスが一番好きです」



「うん、すごい……甘い」



【花言葉は“恋の終わり・恋の思い出・移り変わらぬ気持ち”だそうです】



0の言葉に

少し沈黙する。





「……俺達は…どれだろうね」



終わって思い出になるのか…



ずっと……



「…田中さん、あの……」



「…あっちのも見に行こう。黄色は元気な色だね。オレンジっていうのかな…」



「あ、ほんと…ハロウィンみたい」



ちょうど今っぽい色だ。

…田中さんの手に少し力が込められた気がした。





黄色のコスモスの前で…



「楽しかった?」

そう聞かれ…



「今、ですか?」



「…あの…彼と…」

そう言うと、パッと手を離し

背を向けた。



茎の細いコスモスは少しの風で揺れていた。



「…興味があるから聞いたのに…聞きたくないな」

田中さんがボソッとそう言った。



「特記事項があるなら……聞こうかな」



「…素敵な方でした。だけど、もう会うことはありません。会う機会を与えて下さってありがとうございました」



「……うん」



爽やかな秋の風が、気持ち良く頬を掠めて行った。

< 157 / 187 >

この作品をシェア

pagetop