エリート外科医といいなり婚前同居
感心しながら視線を向けたテーブルの上には、大学で使っているのであろう教科書やノートが広げられている。
医学部……私は挫折してしまった道だけど、目の前の彼はまっすぐそこを突き進んでいるんだ。
拓斗くんの姿がなんとなく眩しく感じられ、自分の不甲斐なさを改めて見せつけられたように思っていたその時。父が緊張気味に口ひげを撫でながら、突然切り出した。
「実は、彼を俺の病院の跡継ぎにと思っているんだが……千波、どう思う?」
「えっ……?」
拓斗くんが、お父さんの病院の跡継ぎ……?
思いもよらなかった話に、とっさに返す言葉が思いつかない。
呆然とする私に、拓斗くんが少し焦った様子で付け加えるように言う。
「もちろん、千波さんが反対されれば、この話はなかったことになります。ただ、僕は幼いころから母に連れられて紺野先生の病院に何度も来ていて、愛着もあるので、個人的にはうれしいお申し出だと思っているのですが……」
拓斗くんが、父の病院をそんなふうに言ってくれるのはうれしい。父だっていつかは現役を引退しなきゃならないし、跡取りも必要だろう。
そして、何より拓斗くんは、父が愛する人の息子だ。跡取りに彼をというのは、ごく自然な選択かもしれない。