エリート外科医といいなり婚前同居

頭では冷静にそう思えるのに、なんでだろう。いいようのない寂しさや疎外感が、私の胸を吹き抜ける。

実の娘は、子どもの頃にいくらおもちゃでお医者さんごっこをしたって、医者になれなかった落ちこぼれ。そんな私が家を出たタイミングで、父は白石さんや拓斗くんと新しい家庭を築こうとしている。

私のことは、知り合いの医者の所で住み込みの家政婦でもしてくれているのが、ちょうどいい距離感だとか思われていたりして……?

「千波?」

ぐるぐる考えていたら、心配そうな父に顔を覗き込まれる。

やだ、私ってば……変なこと考えるのはよそう。お父さんには幸せになってほしいって、この間自分で言ったじゃない。

ちゃんと、応援してあげなくちゃ。お父さんの将来と、新しい家族のこと。

「私は……いいと思うよ?」

複雑な気持ちは押し隠し、私はにっこり微笑んでみせた。拓斗くんはまだ不安げな顔をしていたけれど、父はホッとしたように息をついた。

「よかった……。千波なら、賛成してくれると思ってたよ」

その言葉を聞いて、やっぱり反対なんてしなくてよかったと、私の方こそ安堵していた。

今までずっと苦労してきた父を、とっくに成人した娘のことなんかで困らせたくはないもの。


< 66 / 233 >

この作品をシェア

pagetop