雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
〇高級ブティック(昼)

米山に連れてこられたのは、高級ブランド店がや海外のセレクトショップ並ぶ某有名ストリート。
その中でもひと際、高そうなブティックで陽和は店員に勧められるがままに、ドレスの試着をしている。

陽和「(スーツは分かるけど、どうしてドレスまで…)」
店員「まぁ、お似合いです!」
陽和「ちょっと胸元が開きすぎじゃないですかね」
米山「あら、そんなものよ。いいじゃない可愛いわ」
店員「こちら、パリで人気のデザインなんですよ」
米山「決まりね。このドレスと、そこにあるスーツも何着か彼女のサイズに合わせてください。あとは、普段の使いのカットソーとスカートも適当に選んで」
店員「かしこまりました!」

弾んだ声で答える店員は米山が指定したスーツを取りに行く。
試着室に残された陽和は、米山に声を掛けた。

陽和「あの」
米山「どうしたの?」
陽和「いいんですかね、こんなに。すごく高そうなのに」
米山「いいのよ」
陽和「でも、」
米山「あのね、あなたは社長の専属秘書なんでしょ。専属の秘書というのは、社長のお客様に会うこともあるし、パーティーに同席することもあるの。みすぼらしい恰好でいたら、社長が笑われるのよ」

そういうものなのかぁ、秘書の格好なんて誰も見ないと思うけど。
着ていたドレスの値札をチラッと見る。
12万8千円!?
どんな金銭感覚してるのよ!
鏡を見る、改めて分不相応。
妹の和奏なら、喜んで着るだろうけど。

陽和「(着飾ったところで所詮みすぼらしさは消えないのに、専属秘書なんて務めるのかな……)」

――と、その時、メールが届く。
誰からだろうと、見ると、上の弟・匠だ。

陽和「あの!」

自前のリクルートスーツ姿に戻った陽和は、試着室のカーテンを勢いよく開ける。
驚いた顔をする米山・店員。

陽和「すみません、急用ができたので失礼します!」
米山「え?」
陽和「すぐ戻りますので!」
米山「あ、ちょっと……」

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