雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
〇某ホテルパーティー会場の外(夜)
匠はホテルの外にある中庭らしき場所のベンチに座り、1人項垂れている。
その姿を発見した雨宮が、そっと近づき隣に腰を下ろした。
2人を見守るように、夜空に月が浮かんでいる。

雨宮「こんなところにいたのか」
匠「……」
雨宮「芸能界に興味があるのか」
匠「……別にそういうわけじゃない、です」
雨宮「なら、どうして迷っている?」
匠「迷ってなんかないです、事務所入りの話は断るつもりだったんですけど、バイト先の先輩が勝手にメールを送って、」
雨宮「じゃぁ、ここにも来るべきじゃなかったな」
匠「そんなこと、どうしてあなたに言われなきゃいけないんですか!」
雨宮「僕には君が迷っているように見える。それで、誰かに助けてほしいと懇願しているように見えているんだけど、気のせいかな?」

すっと頭をあげた匠は、泣きそうな顔で雨宮を見た。

匠「僕は、ただ……」
雨宮「ただ?」
匠「自分を表現できる場所が欲しかっただけで、それが芸能界で叶えられるなら、それもアリかと、思ったけど……」
雨宮「まぁ、芸能界って怪しいところだと思うよな。でも、楠田社長のことはよく知っているけど、良い人だよ。事務所もちゃんとしたところだ、それは僕が君のお姉さん保障してあげるよ」
匠「そうじゃないんです、そうじゃなくて……」
雨宮「そこまで言って渋るなよ。全部吐いた方が楽になる」
匠「……僕だけ、好きなことをしていいのかなって。姉は、お姉ちゃんは家族のために自分の夢を捨てて、一生懸命働いているのに。本当は僕も就職して家計を助けなきゃいけないのに、こんな性格のせいで学校もろくに通えなくて、迷惑ばかり掛けたのに芸能界に入りたいなんてお姉ちゃんが聞いたらきっと悲しむだろうなって」


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