雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません

雨宮と匠が話しているのを、陽和と楠田が物陰から見ている。
陽和「(匠……そんなことを考えていたなんて)」

雨宮「確かに君のお姉さんは家族のために夢をあきらめたかもしれない。だけど、果たして自分と同じ思いを弟である君にさせたいと思うかな?」
匠「それは……」
雨宮「そもそも、ひよこにとって夢はあきらめたものなんだろうか」
匠「?」
雨宮「今は君や他の家族のことがあって夢を休止せざるを得ない状況にあるかもしれないが、いずれまた挑戦したいと思う時がきたらすればいい」

陽和(「雨宮社長……)」
楠田が陽和の肩に手をのせる。

雨宮「もし、ひよこが会社を辞めてでも夢を追いたいというなら、僕は全力でサポートするつもりだ。だけど、今のひよこにとっては家族の方が大事だと思うから、家族を養える分の給料を渡している」
匠「それは……はい、感謝しています」
雨宮「君がお礼を言う必要はない。ただし、ひよこの夢のことと、君の将来は別問題だ。君はひよこに遠慮して自分の好きなことができないと考えているようだが、僕から言わせれば、ひよこの事情は単なるこじつけだ」
匠「こじつけ……」
雨宮「本当はやりたいのに自信がないから人のせいにして、やる前からあきらめている。違うか?」

匠は言い返すことができず、唇をかんでいる。

雨宮「そんな生半可な気持ちでは、家族のために夢を休止させたひよこに失礼だ。もちろん、楠田社長にも顔向けできないだろ? 事務所入れは断るといい」
匠「……やりたいです」
雨宮「なんか言ったか? 聞こえなかった」
匠「やりたいです!!今までずっと言えなかったけど、本当はやってみたい!!」
雨宮「だったら、正々堂々胸張ってお姉ちゃんにそう言うんだな」

しばらく俯いていた匠は、徐々に憑き物が落ちたように晴れやかな顔になり頷く。
雨宮は優しい笑顔で「よく言ってくれた」と褒めた。
そんな2人を見守りながら、楠田が陽和に頭を下げる。

楠田「全力でサポートしますので、どうか我が社に匠くんを預けてください」
陽和「よろしくお願いいたします」

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