大嫌い、だから恋人になる
いつもは泣いたり、笑ったり、怒ったり、元気だけが取り柄のちひろが、こんなに弱々しく、俺に頼ってくるのが不思議な感じがした。

そう言えばついつい忘れそうになるけど、こいつ女の子なんだなって思った。

今まで少しもそれらしい所は無かったけど。

不思議なもので一度でも女の子として意識すると、急に可愛く見えてきた。

多分シャンプーの香りだと思うが、甘くて優しい香りがした。

黙っているとそんなに悪くないと思った。  

頭の中がくらくらして、ちひろに触れてみたいと思った。さらさらと風に靡く髪や、柔らかそうな頬に。

結局、ちひろの体調は少し戻り、俺も正気に戻った。こんなちんちくりんが可愛いなんて、春香さんとは比較にもならないのに。

その後、ボートに乗った。日差しを浴びて、青白かった頬に、いつもみたいな赤身が戻って来ていた。何故かそれがとてもキレイな光景に見えた。

ボートの中でこいつと二人きりで居ると、このままで居るのも悪く無いと思った。この時、俺の頭の中には春香さんのことは一切無くて、ずっとちひろとこうしてたいと思った。

今日の俺はどうかしてる。ボートから降りるとそう思った。なんでこんなちんちくりんを可愛いと思ったり、もっと一緒にいたいと思ったりしたんだろう。

俺は自分の気持ちを整理しようとした。

その時、白崎の姿が見えた。
< 197 / 319 >

この作品をシェア

pagetop