Sucre' amour
うつむいて走っていた夢芽は、ドンッと音を立てて誰かにぶつかってしまった。

「ご、ごめんなさい！！」

日本語が先に飛び出し、慌ててフランス語で謝る。そして、顔を上げて驚いた。

「フランシスさん！」

ぶつかったのは、黒い傘を差した私服姿のフランシスだった。モダンな服がとてもよく似合っている。

「……あなたは！」

フランシスはすぐに傘の中に夢芽を入れ、「カフェに行きましょう！」と走り出す。フランシスと同じ傘に入り、手をつないでいるということに夢芽は胸を高鳴らせ、まるでドラマみたいだと思った。

人々のーーー特に女性からの視線が強い。夢芽は恥ずかしさでいっぱいになり、走る足を止める。すると、フランシスも止まった。

「あの！私、大丈夫ですよ？」

夢芽はそっと微笑む。いつもフランシスの前でドジを見せている。これ以上、迷惑をかけたくない。

「このままでは風邪を引いてしまいますから」

僕に任せてください、フランシスはそう言って微笑む。そう言われて頷かない女性はいないだろう。
< 8 / 20 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop