ヴィーナスパニック

と、ちょうど四限目の始まりを知らせるチャイムが鳴った。

チャンスとばかりに、「それじゃあ私はこれで!」と二人に言い残して一目散に走り出す。

その速さたるや、日本新記録出してもおかしくないくらいだった。

「またね〜」とチャラチャラした声が、背にかかる。青髪の彼に違いない。

またなんかあってたまるか!


「おい、お前――」


もうだいぶ遠ざかったからか随分と後方から聞こえるけれど、これは浅葱くんの声だ。

それでも、振り返らない。振り返る理由もない。

私に掛けられたものかもわかんないし。


やっとこさ、実験室にたどり着くとちょうど先生が中に入っていくのが見えた。

四限目の授業は生物だ。ギリギリ間に合った。

ほっと胸をなでおろし、席につく。

教室の席順で座っていたから離れたところにいたさなちんと目が合って、互いに微笑む。

それにしても、さっきの出来事は心臓に悪かった。

浅葱くんあまり学校に来てないから遭遇する確率低いのに、どれだけツイてないんだろう。

……でも、騒がれるだけのことはあるなぁ。

初めてだった。あんなに近くで、浅葱くんを見るのは。
目が合うのも、言葉を交わすのも……全部初めて。
顔の造形もどれだけ身長差があるのかも、はっきりとわかる距離。
なんか良い匂いしたなぁ。

微かに、胸が高鳴る。
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