仁瀬くんは壊れてる
 保健室で二時間休んだあと教室に戻ると、女の子に囲まれた。

「仁瀬くんと知り合い?」
「どうやって仲良くなったの?」

 どうやら噂はすっかり広がってしまったようだ。

「仲良くなんてない」

「えー、でも。連絡先は交換した?」
「特進の子としか遊んでないって聞いたんだけど。一般クラスの子にも希望あるのかな」

 ――ああ、そういうこと。

 慣れてるのは“遊んでる”から。
 さっきみたいなことは。

 息を吐くみたいに、できるんだ。

「こらーー! そこまで! 花は体調悪くて保健室行ってたんだよ。もっと労って」

 沙羅が、女の子たちからわたしをガードしてくれる。

「でもさ、沙羅〜」
「小糸井さん。ズルくない?」

 なにも知らないからそんなこと言えるんだ。

 わたしが羨ましいなら。
 わたしがされてること、代わりにされてきてよ。


 ふと、視界にある人物を捉えた。

「芳田くん」
 わたしから、芳田くんに近づく。

「荷物運んでくれたって聞いた」
「それくらいさせてくれよ」
「ありがとう」
「それより。授業出て平気なのか?」
「もう大丈夫」
「その、大丈夫っての。信用ならねえけどな」
「え?」
「意外と強がりなとこあるって知ったからには」
「芳田くん……」
「まだ“気に食わない”?」
 …………!
「それとも。見直したとか」
 仁瀬くんのことを聞いているんだ。

「嫌いだよ」
「しがみつくかな。嫌いな男に」
「あれは……なりゆきで」
「心配してるように見えた」
 …………え?
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