仁瀬くんは壊れてる
 ――――その日の帰り道。

 駅に向かう途中。
 仁瀬くんが、綺麗な女の先輩と二人で歩いているのを見かけた。

 思えば出逢ってからというもの、いつも違う女の子といる。

 わたしとの噂があっさり消えていくのも、こうして仁瀬くんが誰か一人に固執していないからなのだろう。

 たけど、あの写真が拡散されたら。

 …………沙羅には嫌われるだろう。
 今度こそファンに目をつけられるだろう。

 もしも、わたしが特進クラスの優等生で。
 あの先輩くらいの美人なら。

 誰も文句は言わないかもしれないな。

 芳田くんが言ってた、血相変えて近寄ってきたって。
 ……ほんと?

 そこまで演技したということか。
 それとも――

「今日さ、うちにおいでよ」
「どうしようかな」

 通り過ぎたい。視界から、消したい。
 できれば仁瀬くんに気づかれないうちに。

「親いないんだよね」

 恋人同然の距離感なんて。
 そんなもの、知りやしないが。

 手を繋ぎ。顔を寄せ。
 家にまで誘われて。

 あれが恋人じゃなきゃ、なんだっていうのか。

「ねえ、あの子。巧が助けた子じゃない?」

 ――――気づかれた。

 一瞬、こっちを振り返った仁瀬くんと。

 ほんの数秒目があったあと、

「忘れた」

 冷たくそらされた。

 ほら、やっぱり。
 あなたは平然と嘘をつく。

「ひどーい。顔くらい覚えてあげなよ……んっ」

 ――――重なった、唇。

 目の前で交わされる熱い口づけ。

 わたしにしたのと変わらない。
 いいや、それ以上に深い。

 仁瀬くんは、わたしのこと。

 ただ傷つけて愉しんでるんだ。
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