仁瀬くんは壊れてる
「……なんでそんなこと。言うの」
「思ってること口に出しただけだよ」

 本当に?
 本当に、わたしに逢いたかったの?

「わたし。あなたを選べない」
「なぜ?」

 信じたいけど。
 信じられない。

「友達が。大切なの」
「僕より?」

 ……仁瀬くんより?

「比べられない」

 友達は、友達で。
 仁瀬くんは仁瀬くんだから。

「僕は、言い切れる。君より大切なものはない」

 ゆっくりと近づいてきた仁瀬くんが――
「花。僕の心配してくれたんだ」
 宝物を扱うような目で、見つめてくる。

「ありがとう。嬉しいな」

 選べない、のに。

「あがってく? でも、うつしちゃ悪いから。ここでバイバイしようか」

 どうして急に、優しいこと言うの。

「本当は。もっと一緒にいたいけど」

 離れようとしたら引き寄せて。
 近づいたら突き放して。
 
「大好きだよ」

 結局、あなたから離れられなくするんだ。

「……仁瀬くん」

 わたし、どうしたらいいかわからない。

 ここにいたい。
 でも、いちゃいけないと思う。

「名前で呼んでよ」

 たた、ひとの名前を呼ぶのに。
 ここまでドキドキするのは、どうして?

「……たく、み。くん」
「ああ。やっぱり、無理だ」

 手を力強く握られ、歩き出す。

「巧、くん?」

 エントランスをくぐり。
 エレベーターに乗り込むと、壁におさえつけられた。

「どうして来た」
「……え?」
「そんなに僕のことが好きか」
「……っ」

 マスクをおろした巧くんから、強引なキスをされて。

「巧くん。カメラ。……ついてる」
「花とのキスなら記録に残っていいよ」
「…………」
「これでもし花が風邪ひいちゃったら、そのときは。僕が看病してあげる」
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