My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

「ラグ?」

 私が小声で言うとセリーンは小さく笑いながら頭を振った。

「いや、何でもない。……そういえば、あのエルネストという男。お前達が捜していると言っていたのはあの男なのか?」

 視線の意味は気になったが、これ以上は話してくれない気がして私はその質問に答えることにした。

「うん。私が元の世界に帰るには彼に会わないといけなくて」
「そして、あの素晴らしい呪いを解ける者、ということか」
「素晴らしいとか言うな! 胸糞悪ぃ!」

 ラグがこちらを見もせずに怒鳴る。しっかりと聞こえていたみたいだ。
 つい苦笑が漏れそうになった、そのとき。

「しかしあの男、前にもどこかで見た気がするんだが……」
「え!?」
「!?」

 勢いよくこちらを振り返るラグ。

「どこでだ!!」
「いや、それが……全く思い出せん」

 がっくりと肩を落とす私達。

「私は今までにいろんな国に行ったからな。いちいち細かいことまで覚えていない」
「でもエルネストさん幽閉されてるって! 見たって場所限られると思うけど……!」

 思わず興奮してセリーンを見つめる。だが、

「幽閉? ……スマン、やはり思い出せない」
「ちっ……! 何か思い出したら即言えよな」

そう言ってラグはまた前に向き直ってしまった。

 でもこれは大きな収穫だ。
 セリーンが思い出せればそれに越したことは無いが、彼女の行ったことのある国に特定できる。 
 私は高揚した気分を落ち着かせるようにひとつ深呼吸した。

「――と、着いたみたいだぜ」

 ラグの声に前方を見ると、かなり錆びついたドアが開いていた。
 その中に背を屈めて入っていくお父さん。
 まさかそこが彼らの家――ということはないだろう。勝手に入ってしまっていいのだろうか?

 私達は顔を見合わせて、その建物に向かった。
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