My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

 一人になり私はその場に腰を下ろす。

(ふぃ~、こんなに長く走ったの持久走以来かも)

 次から次に額から流れてくる汗を拭いながら、私はふと中学の体育の授業を思い出していた。
 元々運動は得意な方では無いけれど、この世界に来てから何度自分の体力の無さを痛感しただろう。
 でも確実に足の筋肉は付いてきている気がした。……あまり嬉しくないけれど。

 一息ついたところで、私は改めてラウト君の行った先を見つめた。
 彼の姿は見えない。家の中に入ってしまったのだろうか。

 ……しかしそのクラールという友達、どういう子なのだろう。
 ラウト君の言い方からきっと男の子だろうと予想はできたが、今日の子供達の中にいなかったというのがやはり気になった。
 内緒で会っていたというからには、きっとクラール君の家族もそのことは知らないはず。
 この時間、家族に気付かれずにその子に会うことなど可能なのだろうか……?

 一人でいると答えの出ない疑問ばかり浮かんでくる。

(やっぱ、まずかったかなぁ)

 冷静になって良く考えてみたら、ラウト君がいなくなったことに一番に気付くだろう人物はヴィルトさんだ。
 もう気付いているかもしれない。
 子供がこんな時間にいなくなって慌てない親はいない。
 そうなると、私も一緒にいないことに皆すぐに気が付くだろう。
 クラール君に会って、歌って、すぐに戻ったとしてもどうしたってあと30分以上はかかる。

 ……皆にどう説明しよう。
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