My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

「クラール君のお父さんね、つい最近亡くなって……それから元気なくなっちゃったんだって言ってた」

 小さく言うと、ラグは溜息一つ吐いて立ち上がった。

「それは、いくらオレでもどうにも出来ねぇな。要するにこいつの気力の問題ってこったろ」
「そうだけど……でも、このままじゃ」

 私は絶望的な思いでもう一度横たわるクラール君を見つめる。
 と、いきなり頭をペシっと叩かれた。
 驚き見上げると心底呆れたような視線とぶつかる。

「お前の出番なんじゃねーのかよ。銀のセイレーンさん」
「え?」
「お前言ってなかったか? 歌は人を元気にしてくれる、とか何とか」
「あ!」

 思わず大きな声を上げていた。

 ――そうだ!
 ラウト君が私をここに連れてきたかったそもそもの理由。
 昼間、とびきりの笑顔で帰っていった子供達の姿が蘇る。

 自分の事ながら未だ謎だらけの“銀のセイレーン”の力。
 この力のせいで、此処レヴールに来てから散々な目に合ってきたけれど、今はこの力が無限の可能性を秘めているような、そんな素晴らしいものに思えた。

 クラール君の閉じた心に届くかわからないけれど、彼のために歌いたい……!
 そう強く思った。

 ――どんな歌にしよう。

(子供が聴いて元気が出る歌、元気が出る歌……)

 だが、その思考はラグの声によって遮られた。

「ちょっと待て、誰か来る」
「!?」

 焦って入り口を振り返る。
 こちらに近付いてくる足音。

 ――誰?

 ラグが私の前に出た。その手はいつでも抜けるように腰のナイフに触れている。
 ブゥもラグの頭から飛び立ち、威嚇するように入口を見据えた。
 先ほど、ラウトくんと二人だったときは酷く緊張したけれど、今はラグとブゥがいてくれる。
 絶対的な安心感があった。
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