My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

 どこまで自分勝手な奴なんだろう。
 怒りで身体を震わせていると、目の前にいたラグが動いた。
 私は慌てて彼の後を追う。
 ひさしのある正面に回った彼はドアの前に立ち、濡れて目に掛かってしまっていた前髪を鬱陶しげに払った。
 そんな彼に思い切って言う。

「やっぱり私が先に」

 だが私が言い終わらないうちに、なんと彼は目の前の木造のドアに思い切り蹴りを入れた。
 凄まじい音を立てて、向こう側に倒れていくドア。
 あまりに突然の行動に目をまん丸にしていると、すぐにドタドタと激しい足音が近付いてきてカルダともう一人の男が姿を現した。

「なんだテメェらは!!」

 こちらに向かいそう怒鳴ったカルダの目が、私を見つけてニヤリと歪む。

「そうか、早速炙り出されてきたってわけかい」

 そのにやけた顔を見た瞬間、全身に震えが走った。
 思い出したくないのに、あの時の恐怖が一瞬にして蘇る。
 でもそのときふいに肩に優しく手を置かれ、それがセリーンだと気付き、なんとか耐えることが出来た。

(しっかりしなきゃ!)

 私は気力を奮い立たせ精一杯カルダを睨みつけた。
 と、ラグが自分が倒したドアを踏みつけながら中に入っていく。
 その全く躊躇の無い動きに今度はカルダではないもう一人の男の方が慌てるように喚いた。

「な、なんなんだお前達は!」

 その男はカルダに比べると大分軟弱そうに見えた。見た目も態度も。
 しかし先ほどの会話からして、カルダよりも上の立場の者のようだ。カルダは全くそのことを気にしていない様子だったが。

「へっへっ、言った通りだったろうが。こいつが俺が見た怪しい女だ!」

 カルダが私を指差し嬉しそうに言う。

「まさか3人もいやがったとは。見ろ。あからさまな不法入国者じゃねーか。お前ら、一体どこから入って来やがった。何のためにあの村にいやがった!」

 不法入国者。その言葉に私はどきりとする。
 確かに、私達は何の手続きもしないままこの国に入ってしまった。やはり、この世界でもそれは犯罪行為になってしまうのだろうか。

(だとしたら、すっごくマズイんじゃないの!?)
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