偽婚
神藤さんは、私の言葉ひとつひとつをちゃんと聞き、携帯のメモ画面に入力していく。

「ちょっと調べてみよう」と言い始めた神藤さんには、さすがの私も少し焦った。



「ねぇ、素人の意見だよ? 大丈夫?」

「普通の客の、普通の意見が一番大事なんだよ。やっぱりどうしても、俺たちじゃ気付けないこともあるからな」

「そんなもんなのかなぁ?」

「お前は難しく考えなくていい。頭を使うのは俺の仕事だ」

「またそうやって、人をバカにして」


しかし、神藤さんは怒る私を見て、「ぶはっ」と噴き出したように笑った。

何だかなぁ、と思う。


神藤さんが声を立てて笑う度、調子が狂って嫌になる。



「前の俺は、目先の売上ばかり気にしてた。でも、客をおざなりにして、いい商売ができるわけないって気付いたんだ。だから今は、客のためを考えて頑張ってる。それが楽しいと思う」

「うん。いいと思う。商売とか関係なく、人と人って真心が大事だし、伝わるものだと思うから」

「だといいけどな」


神藤さんはまた笑いながら、微妙な味のコーヒーを飲んだ。

言うべきか、言わないべきか、ずっと迷っていたけれど、でも今なら言ってもいいだろうと思った。



「ねぇ、神藤さん」

「ん?」
< 116 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop