偽婚
「それ聞いて、何か泣けてきてさ。そのあとに出された飯がまたうまくて、胃袋まで掴まれた。恐ろしい女だと思ったよ。最初は見た目がタイプだと思っただけだったのに、俺の方がハマってんだもんな」


高峰さんが笑うから、私まで笑ってしまった。



「ねぇ、もし梨乃に子供ができたら、高峰さんだったらどうする?」

「さぁな。そうなってみないとわかんないけど。でも、どっちにしても、ひとりで悩ませたくはないかな」


その言葉だけで、高峰さんの本気が見えた気がした。

梨乃が幸せならそれでいいと、私は思う。



「梨乃のこと、泣かせないでね」

「そうだな。逃げられたら困るもんな」


またふたりで笑う。

しばらくの後、コンビニ袋片手の梨乃が帰ってきた。



「はい、これ、杏奈の分」

「ありがと」


私にペットボトルを手渡しながら、梨乃は困ったように言った。



「さっき、コンビニに、2歳くらいの女の子がいてさ。私に向かってばいばーいって手振ってくんの。それがもう可愛くてさ」

「うん」

「あぁ、子供っていいなって思ったよ。杏奈のこと応援できるかはまた別の話だけど」

「うん。わかってる」
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