偽婚
たとえばきちんと結婚していたとしても、私なんかが本当に子供を育てられるのだろうかという不安は、常にあるだろう。

けど、それでも、産みたい。


高峰さんは立ち上がった。



「とにかく、今日はゆっくり休んで、もう一度よく考えなよ。俺らがいくら言ったところで、杏奈ちゃんの人生なんだ。無理強いする気はないから」


そう言った高峰さんは、梨乃に「しばらくうちに泊まればいいよ」と言った。


梨乃の部屋はワンルームだ。

ふたりで寝るには狭すぎる。



「ごめんね、梨乃。高峰さんも。迷惑かけまくりで、本当にごめん」

「そんなのお互い様なんだから、気にしなくていいよ。部屋にあるものは好きに使っていいから。あと、何か困ったことがあったら、いつでも電話してきて」

「ありがと」


梨乃と高峰さんを送り出す。



ひとりきりになり、私は息を吐いた。


誰に何を言われても、堕ろしたいとは思わなかった。

それが私の答えなのだろうと思ったら、少しだけすっきりした。



私は、ひとりで、子供を産む。

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