偽婚
そう言って顔を上げた梨乃は、私を見る。



「お母さん、杏奈のこと応援してるって言ってたよ。杏奈は娘みたいなもんだからって」

「おばさんが……」

「でね? ちょうど今、パートさんが辞めて困ってたところだったから、杏奈さえよければ、お店手伝ってくれないかって」

「えっ」

「妊婦だってわかってるから無理のない範囲でさ。お母さんも、杏奈なら気心知れてるから安心だって言ってるんだけど。どう?」


働かなきゃいけないのはわかっていた。

でも高峰さんが言う通り、妊婦なんか雇ってくれないだろうと思っていた。


なのに。



「やるよ! やらせて! 何でもするから!」


思わず梨乃の手を掴む。

梨乃は笑いながら、「わかった」と言った。


そのタイミングで、高峰さんが戻ってきた。



「梨乃。明日、早番だろ? 俺も明日は早いから、遅くならないうちに帰ろう」

「わっ、ごめん。そうだよね。きてくれてありがとう。って、梨乃の家だけど」


焦って言う私。



「高峰さん、ほんとごめんね。私、なるべく早く、住むとこ探すから。もうちょっとだけ」

「いや、俺はこのまま梨乃と暮らしてもいいかなって思ってるから、別にどっちでも」

「えぇ!?」


と、声を上げたのは、私ではなく梨乃だった。

梨乃はみるみるうちに、真っ赤になる。
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