偽婚

恋心



不幸中の幸いとでも言うべきか、翌日から、神藤さんは2泊3日の出張に出かけた。

何でも、新店舗がオープンしたとかで、それの視察だそうだ。


家事をしなくてもいいなんて最高。

だと、思ったのは初日だけで、誰とも話をせずに一日を終えることが虚しいと感じた自分に自分で驚いた。


元から、用もないのに連絡してこない神藤さんが、出張先から電話してくるようなことはない。

私だって、用がないのに連絡する理由がない。


梨乃を飲みに誘ったけれど、仕事が忙しいからと断られた。

働かなくてもお金がもらえる身分だというのに、ワガママだと自分でも思うけれど。


専業主婦ってのも、寂しいものだ。

ひとりでいると、自分が天涯孤独だったことを思い出す。



ずっと、神藤さんがいてくれたから会話には困らなかったのだと、私は今になって思い知らされた気がした。

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