存在と錯覚
歳のとった女性に声をかけられた。
どうしたの?
と。どうもこうもありはしないが。
一見広いように見えるが、
とても狭く心地の悪い何かが流れ込んでいる空間に閉じ込めてくる人だ。
手を伸ばして頬に触れてみると、
たちまちそれは無かったことのようになる。
何も無かった。何も生み出せなかった。
あのなかにあるのが、実態をもったもので、
こちら側にはなにも無かったと。
言われているような気がしてくる。
触れられるのに届きはしないものに、
ニタニタと笑われながら。
< 2 / 3 >

この作品をシェア

pagetop