Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
「あんた、どういうつもり?」


「あん?」


いきなり怒声を上げる千尋を、鬱陶しげに見る澤城くん。


「自分はコミュ障とか、いい歳して、よく恥ずかしげもなく言えるわね。そんなんで、世の中渡ってけると思ってんの?甘ったれてんじゃないわよ!」


「・・・。」


「院卒だか、なんだか知らないけど、先輩に対する口のきき方も知らないのかって呆れてたら、人とまともなコミュニケーションも取れない奴が、よくノコノコ社会に出て来られたわね。あんた、本当に入社試験、通ったの?」


「ちょっと千尋、もう止めて。」


凄い剣幕でまくしたてる千尋を、私は懸命に宥めようとするけど、お酒の勢いもあって、千尋は止まらない。


「梓は黙ってて。私、コイツ許せない。見てて、腹立ってしょうがないんだよ。あんたなんか、一般企業なんかに就職しないで、どっかの研究室にでも、オタクよろしく、一生閉じこもってた方がお似合いだったんじゃないの?」


「ふざけるな!」


さすがに、千尋の暴言に近い言葉に、私が蒼くなっていると、それまで黙ってた澤城くんが、怒鳴り返すように言った。


「黙ってりゃ、お前、今、何って言った?研究職を冒涜するような台詞は、許さねぇぞ!」


その迫力に、千尋は黙り込む。


「お前なんかに言われなくてもわかってる。俺だって本当は、研究室に残ってやりたいことがいっぱいあったんだ。好き好んで、サラリーマンなんかに、なったんじゃねぇよ!」


「澤城くん・・・。」


その澤城くんの言い草も、どうかと思いながら、私は彼の顔を見る。そんな私に視線を送ることなく、澤城くんは立ち上がると


「すいません、お騒がせして。今日はこれで失礼します。」


と向こうの課長に挨拶して、出口に向かい出す。


「澤城くん!」


そんな彼に思わず、呼び掛けた私の方を振り返った澤城くんは


「お先に。あんた、いい友達に恵まれてるな。」


皮肉げな笑みを浮かべて、そう言い残すと、そのまま部屋を後にして行ってしまった。
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