愛しの彼はマダムキラー★11/3 全編公開しました★
第十七章
そのまま美海は、星佑の部屋に泊まった。

「マンションを引き払ってここにおいで」
「えっ」
うれしいやら恥ずかしいやら。どぎまぎする美海。

晃良は慌ただしく帰っていった。
なのでカプセルホテルからマンションに戻ろうと思っていたところだったのである。ただ、もちろんこのまま晃良のマンションにいるつもりはなかった。
晃良が紹介してくれた職場の面接に行き、就職することができたらすぐにでも部屋を探そうと思っていたのである。

「たとえ偽物で今はもう日本にいないとわかっていても、他の男の部屋にいるのはいやだ」
「星佑さん……」

星佑に送られて、美海は一旦マンションに帰った。

「じゃあ」としばしお別れのキスをして、車を出ようとした美海に星佑は手を伸ばしてなにかを差し出す。
「待ってて」
美海の手のひらに渡されたのは鍵。
星佑のマンションの鍵だった。

ポッと頬を染める美海。
「ありがとう」


美海と別れた星佑は、そのまま朝比奈シキコに会いに行った。

待ち合わせはホテルオデッセイのロビーラウンジ。
シキコは既に席にいた。

ウエイトレスに星佑がコーヒーを頼もうとすると、シキコが口を挟む。
「ここのロイヤルミルクティー美味しいわよ?」
一瞬考えた星佑は、「では、ミルクティーを」と告げる。

満足げにシキコがニヤリと微笑む。

「それで、お話というのは?」
カップの紅茶をコクリと飲み、シキコは少し首を傾げながら、ジッと星佑を見る。
そしてゆっくりと口を開いた。

「社長室にいた、あの子。どういう関係?」

星佑がピクリと眉をひそめる。

「あなたが恋人を作るなら、社長は降りてもらうわ」

シキコは大株主だった。
この会社を立ち上げる時、シキコの援助を受けた見返りに大株主になったのである。
シキコだけではそれはできないが、もう一人の大株主の女性が同意すれば、星佑は社長の座から引きずり降ろされるのだ。

「私の評価が、そんなことで下されるとは、なんとも情けない話ですね」
星佑、やれやれとため息をつく。


そしてその頃。
もう一人の女性大株主、谷阿弓が美海に電話をかけていた。

電話を受けた時、美海は晃良のマンションで、荷物の整理をしているところだった。
その手は止まったまま、茫然とただスマートホンを握りしめている。

「えっ? それはあの……どういう?」

『あなたが星佑といる限り、星佑は『ファウンテンS』を追われることになりそうよ。どうしたらいいかしら』
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