私の中におっさん(魔王)がいる。
「単刀直入に訊こう、小娘」
こ、小娘? 今時小娘とか言うかな。でも、それより気になるのは、この人の声だ。全然抑揚がない。低く、良く通る声なのに声にまったく波がないから違和感と、変な威圧感がある。
戸惑っている私に、彼はおかしなことを訊いた。
「ありえないとは思うが、お前が魔王か?」
「……は?」
魔王?
「えっと……?」
「昨夜のことは覚えておいでですか?」
私が困ってると、執事風の男性が訊いてきた。
「昨夜……?」
ってことは、家を出てから丸一日くらい経ってるってこと? ヤバイ。これって無断外泊じゃん。お母さんとお父さんに怒られる。早く帰らなきゃ。
「空から落ちてきたことだよ。覚えてるの?」
フードの少年が若干イラついたように急かす。
「え? 空から? ……夢でなら見ましたけど」
途中で苦笑してしまった。
「いいえ。実際、落ちていらっしゃいましたよ」
「は?」
私は思わず目を丸くした。
「ですが、見事に着地しておいででした」
「着地?」
あの高さから落ちて? あんなところから落ちたら、脚の骨折るどころじゃすまないよ。確実に死んでる。冗談のつもりなのかな?
「そんなことよりさ、なんで落ちてきたのか聞かせてよ」
軽く混乱していると、フードの少年が身を乗り出してきた。
「えっと……」
夢の話なんてして良いのかな? まあ、しょせん夢なんだけど……。さっさと話して、ここがどこなのか聞いて帰ろう。
私は登校途中で闇に飲まれたこと、白い空間で変なおじさんに会ったこと、白い空間が煙になって襲ってきて、何故か空から落ちていたことを包み隠さず話した――遅刻のことは内緒にしたけど。
「……」
私が話し終わると、沈黙が出来てしまった。ううっ、なんか気まずい。でも何故かみんなが一瞬、執事風の彼に視線を向けた気がした。
「あの、こんな夢の話を聞いてどうするんですか? っていうか、ここってどこなんでしょうか? 私、帰りたいんですけど」
「そうか、分かった」
マネキンみたいな男性が静かに顎を引く。
良かった。帰してくれる――。
「もう部屋へ帰るがいい」
違う! 部屋じゃなくて、家に帰りたいのっ!
私が反論する前に、彼は手を上下に動かした。シッシ! という野良犬とか猫とかにするしぐさ。
(なにこの人。超失礼なんですけど!)
「失礼ですが、お名前をお聞かせ願えますか?」
口を尖らせた私に、執事風の男性が遠慮がちに微笑んだ。この人は、良い人そう。美形だし、イケメンだし、きれいだし。
「えっと、谷中ゆりです」
「谷中様ですね。私は風間(ふうま)と申します」
「風間さん……」
どこぞの忍者みたいですけど、ステキな名前ですね。風のように爽やかで、風間さんにお似合いです!
なんてことは言えず、ただ笑み返すと、黒髪の青年が元気良く手を上げた。
「俺! 俺、三条雪村!」
「三条さん」
「雪村って呼んで!」
フレンドリーな人だなぁ。この人も良い人そう。でも、やっぱり本当は人見知りなのかも。緊張からなのか、声が少し裏返ってた。
「ぼく、黒田ろく」
つまらなそうに呟いて、フードの少年はそっぽ向いた。
ふむ。やっぱりまだ声変わり途中な声音だし、年下そうだな……。ろく君か。ちょっと言い辛いから、黒田からとってクロちゃんって呼ぼうかな。もちろん心の中だけだけど。――っていうか、今後呼ぶ機会なんてあるのかな? 私すぐ帰りたいし。早く帰って、何て説明して良いかわかんないけど、ちゃんと言わないと親に大目玉くらうよ。
そんなことを考えていると、白髪のちょっと怖い男性が軽く手を上げた。
「花野井剣之助ってんだ。よろしくなぁ、お嬢ちゃん!」
「……よろしくお願いします」
意外な感じがして、少し驚いてしまった。
外見と違って、話し方はそんなに怖くなかった。むしろ、社交的な感じが好感をもてて、お兄ちゃんとか、アニキ! って感じ。よく見れば、タレ目がちょっと優しそうだし、ガタイが良くて、態度も大きいってだけなのかも。怖そうな印象を除けば、顔だって整ってるし。鼻高いし。
そう思っていると、最後にマネキンみたいな男性が無愛想に自己紹介した。
「毛利、毛利影也(もうりかげなり)だ」
やっぱり声の調子は抑揚がない。表情もないし、本当に顔がきれいなだけのただのマネキンみたい。なんだか、もったいないなぁ。もっと感情を出せばすごくモテそうなのに。いや、実際モテてるのかも知れないけど。私、毛利さんのこと何も知らないし。
「お引止めしてしまって、申し訳ございません。どうぞ、お戻りになられてください」
「いや、あの、私、家に帰りたいんです」
遠慮がちに言うと、風間さんは困ったように微笑(わら)った。
「申し訳ございません。現段階では、お帰しすることは出来ません」
「……は?」
どゆこと?
こ、小娘? 今時小娘とか言うかな。でも、それより気になるのは、この人の声だ。全然抑揚がない。低く、良く通る声なのに声にまったく波がないから違和感と、変な威圧感がある。
戸惑っている私に、彼はおかしなことを訊いた。
「ありえないとは思うが、お前が魔王か?」
「……は?」
魔王?
「えっと……?」
「昨夜のことは覚えておいでですか?」
私が困ってると、執事風の男性が訊いてきた。
「昨夜……?」
ってことは、家を出てから丸一日くらい経ってるってこと? ヤバイ。これって無断外泊じゃん。お母さんとお父さんに怒られる。早く帰らなきゃ。
「空から落ちてきたことだよ。覚えてるの?」
フードの少年が若干イラついたように急かす。
「え? 空から? ……夢でなら見ましたけど」
途中で苦笑してしまった。
「いいえ。実際、落ちていらっしゃいましたよ」
「は?」
私は思わず目を丸くした。
「ですが、見事に着地しておいででした」
「着地?」
あの高さから落ちて? あんなところから落ちたら、脚の骨折るどころじゃすまないよ。確実に死んでる。冗談のつもりなのかな?
「そんなことよりさ、なんで落ちてきたのか聞かせてよ」
軽く混乱していると、フードの少年が身を乗り出してきた。
「えっと……」
夢の話なんてして良いのかな? まあ、しょせん夢なんだけど……。さっさと話して、ここがどこなのか聞いて帰ろう。
私は登校途中で闇に飲まれたこと、白い空間で変なおじさんに会ったこと、白い空間が煙になって襲ってきて、何故か空から落ちていたことを包み隠さず話した――遅刻のことは内緒にしたけど。
「……」
私が話し終わると、沈黙が出来てしまった。ううっ、なんか気まずい。でも何故かみんなが一瞬、執事風の彼に視線を向けた気がした。
「あの、こんな夢の話を聞いてどうするんですか? っていうか、ここってどこなんでしょうか? 私、帰りたいんですけど」
「そうか、分かった」
マネキンみたいな男性が静かに顎を引く。
良かった。帰してくれる――。
「もう部屋へ帰るがいい」
違う! 部屋じゃなくて、家に帰りたいのっ!
私が反論する前に、彼は手を上下に動かした。シッシ! という野良犬とか猫とかにするしぐさ。
(なにこの人。超失礼なんですけど!)
「失礼ですが、お名前をお聞かせ願えますか?」
口を尖らせた私に、執事風の男性が遠慮がちに微笑んだ。この人は、良い人そう。美形だし、イケメンだし、きれいだし。
「えっと、谷中ゆりです」
「谷中様ですね。私は風間(ふうま)と申します」
「風間さん……」
どこぞの忍者みたいですけど、ステキな名前ですね。風のように爽やかで、風間さんにお似合いです!
なんてことは言えず、ただ笑み返すと、黒髪の青年が元気良く手を上げた。
「俺! 俺、三条雪村!」
「三条さん」
「雪村って呼んで!」
フレンドリーな人だなぁ。この人も良い人そう。でも、やっぱり本当は人見知りなのかも。緊張からなのか、声が少し裏返ってた。
「ぼく、黒田ろく」
つまらなそうに呟いて、フードの少年はそっぽ向いた。
ふむ。やっぱりまだ声変わり途中な声音だし、年下そうだな……。ろく君か。ちょっと言い辛いから、黒田からとってクロちゃんって呼ぼうかな。もちろん心の中だけだけど。――っていうか、今後呼ぶ機会なんてあるのかな? 私すぐ帰りたいし。早く帰って、何て説明して良いかわかんないけど、ちゃんと言わないと親に大目玉くらうよ。
そんなことを考えていると、白髪のちょっと怖い男性が軽く手を上げた。
「花野井剣之助ってんだ。よろしくなぁ、お嬢ちゃん!」
「……よろしくお願いします」
意外な感じがして、少し驚いてしまった。
外見と違って、話し方はそんなに怖くなかった。むしろ、社交的な感じが好感をもてて、お兄ちゃんとか、アニキ! って感じ。よく見れば、タレ目がちょっと優しそうだし、ガタイが良くて、態度も大きいってだけなのかも。怖そうな印象を除けば、顔だって整ってるし。鼻高いし。
そう思っていると、最後にマネキンみたいな男性が無愛想に自己紹介した。
「毛利、毛利影也(もうりかげなり)だ」
やっぱり声の調子は抑揚がない。表情もないし、本当に顔がきれいなだけのただのマネキンみたい。なんだか、もったいないなぁ。もっと感情を出せばすごくモテそうなのに。いや、実際モテてるのかも知れないけど。私、毛利さんのこと何も知らないし。
「お引止めしてしまって、申し訳ございません。どうぞ、お戻りになられてください」
「いや、あの、私、家に帰りたいんです」
遠慮がちに言うと、風間さんは困ったように微笑(わら)った。
「申し訳ございません。現段階では、お帰しすることは出来ません」
「……は?」
どゆこと?