私の中におっさん(魔王)がいる。
「この生物は〝ゴンゴドーラ〟ドラゴンの一種だね」

 私はめをぱちくりとさせた。
(今、なんて言った?)
 クロちゃんは呆れたようにため息をついて、ゴンゴドーラとやらを見る。

「飛ぶのがへたくそで有名なんだよね~。全長は羽を広げると二~三メートルくらい。ドラゴンの中では小さい方だね。でも普段は群れでいるから、襲われたら普通の人は生きて帰ってこれないだろうね。よかったね、単独のゴンゴドーラで。ま、ぼくなら群れでも平気だけどね」

 クロちゃんは得意気に言ってウィンクしたけど、私はそれどころじゃない。説明もそこそこに、愕然としてしまった。

 本当に、本気で言ってるの? あれが伝説上の生物であるドラゴンだって? そんなバカな。――でも、じゃあ、他になんだっていうの?
 
「あ~っ! みつけたぁ!」

 突然大声がして、びくっと肩を震わせた。振向くと雪村くんと風間さんが走ってきていた。

「良かった。無事だったんだな! 青龍の門の結界が破られた気配がしたから、もしかしたらと思ってみんなで探してたんだよ。部屋にも居なかったし! この森危険な部族がいて危ないらしいからさぁ、心配したよ!」

 ほっと胸を撫で下ろした雪村くんは、私の顔を見てきょとんとした。後から来た風間さんが心配そうに眉根を寄せる。

「どうなさいました? 谷中様」
「え?」
「何か、ございましたか?」
「あの……そこの生物がドラゴンだって――」
「ええ。そうですね」

 風間さんは振り返って横たわる生物を見た。

「でも、ドラゴンは伝説上の、空想の生き物で」
「いいえ。実際に存在しております。めずらしくもありません。――この世界では」
「…………」

 私は呆然としながら、横たわる生物をじっと見つめる。
 口を開こうとして、唇が震えた。今から言う言葉を、どうか、否定しないで。お願いだから。

「ここは、日本ですよね?」
「いいえ。ここは倭和国の十青(じゅうせい)地方です」

 風間さんの毅然とした声音に、頭が真っ白になった。
 本当に、ここは日本じゃないの? ――私のいた世界じゃないの?


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