私の中におっさん(魔王)がいる。

 * * *


 廊下をてくてくと歩く。
 数分間歩いているけど、雪村くんは黙ったままだ。
 あいかわらず顔が赤いし、一向に呪符を使う気配がない。

「ねえ、雪村くん。呪符使わないと移動できないんじゃなかったっけ?」

 そっと訊くと、雪村くんはびくっと肩を竦めた。
 もう~。どんだけ人見知りなの?

「あ、ああっ! そうだった!」

 思い出したように声を上げて、雪村くんはズボンのポケットから水色の呪符を取り出した。

「つ、使うから、一メートル以内にいてね」
「え? なんで?」
「これ、持ってる人の一メートル以内にいる人も一緒に転移できるから」
「そうなんだ。すごいね」
「そう?」

 雪村くんはきょとんと首を傾げる。

「普通はそんなこと出来ないもん。まあ、この世界だったら常識なのかも知れないけど」
「ああ……まあ、常識ではないかな」
「そうなの?」
「うん」

 雪村くんはこくりと頷く。

「そういえば、こういうこと出来るのって結界師だけなんだっけ」
「どうして知ってるの?」

 ぽつりと独り言をこぼしたら、雪村くんに拾われてしまった。

「花野井さんに聞いたの」
「ふ~ん。でも、ちょっと違うな」

 今度は雪村くんが独り言みたいに呟く。

「どう違うの?」
「これは結界師だけじゃなくて、能力者なら誰でも使えるから」
「能力者? そういえば、アニ――花野井さんもすっごく足が速かったよね」
「うん。花野井さんも能力者だと思う。っていうか、キミが会った人は全員能力者だと思うよ。まあ、従者の人はわからないけど」
「そうなの? っていうか、能力者じゃない人もいるんだ」
「そりゃいるよ」
 雪村くんは当然といった感じで頷いた。
「能力者の数とそうでない人の数は常に一定ってわけじゃなくて、その年とか年代とかによって変わってくるんだ。能力者が生まれるのが多い年もあれば、少ない年もある」
「へえ」
 能力者か、なんかちょっと羨ましい。雪村くん、私が会った人全員能力者って言ってたけど、毛利さんはドラゴンを切ったし、アニキは足速いし、雪村くんと風間さんは結界師ってやつらしいし、その辺は納得だけど、クロちゃんは?

「クロちゃ――黒田くんも能力者なの?」

(どうしても、心の中で呼んでる名前が出ちゃういそうになるなぁ……)
 苦笑する私を雪村くんは一瞬だけ怪訝に見る。

「黒田くんなんて、能力者中の能力者なんじゃない? 良くは知らないけど、有名な人らしいし」

 クロちゃんが有名人? たしかに堂々としててスターのオーラっぽいのは感じるけど。
 美章ってたしか、地図で見たな。

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