私の中におっさん(魔王)がいる。
「あ、あの――んっ!」
一瞬、なにが起こったのか、解らなかった。
毛利さんの冷たい目がすぐそこにあって、それ以外はなにも見えない。金色の瞳が閉じられて、口内にぬるりとした何かが侵入してくる。
(えっ、うそ。やめて! 気持ち悪い!)
「うっ、う~っ!」
押しのけようと胸を押すと、後頭部を押さえつけられた。侵入者はさらに深くなる。私は毛利さんの胸を叩いた。でも、びくともしない。
そのまま、布団に押し倒された。同時に両手を奪われる。
いとも簡単に片手で両手首を掴まれて、頭の上へと押し付けられた。
「痛い!」
思わず小さく叫ぶ。
私の悲鳴にかまわずに、毛利さんは大きな手で浴衣が捲れてあらわになった太ももをなでていく。
唇が、首筋に触れた。
「ひっ」
喉がつまった。言葉が痞えて出てこない。
(このままじゃ……私!)
ガタガタと体が震えてくる。
やめて、って言うんだ。お願い、声、出て……。叫んで!
** *
ゆりの異変に気づいたのは、毛利がゆりの首筋に唇を落とした直後だった。心音が聴こえない。
いや、かすかに――ドクン、ドクンと脈打っている。
異変を察知した毛利はゆりの腕を放した。
ゆりの瞳は虚ろに闇を写している。
あの時と同じかと、毛利はわずかに眉をひそめた。
「……!」
次の瞬間、毛利は後ろへ飛び退いた。
ゆりの体から、毛利の居た場所まで、半円の何かがとび出していた。
その物体は淡く光を放つ。
そこへ一匹の蛾がふわふわと飛んできた。
淡い光に誘われるように近づいた蛾は、触れた途端、消滅した。
まるで光に溶けたようだった。