私の中におっさん(魔王)がいる。
第九章・告白されました。
 その日、私は中央の和室でむっすりとしていた。
 お風呂事件から三週間くらい経っていたけど、いまだに腹立たしくて。

 あのとき、着替えてお風呂小屋から出るとクロちゃんが待っていてくれて部屋まで案内してくれた。
 私達が部屋へ行ったときにはもうランプが燈っていて、布団が敷いてあった。変態の雪村くんと違って、クロちゃんはおやすみと言って、なんとまあ、私の手の甲にやさしくキスをして去っていった。

「クロちゃんってば、王子様かっての」

 口ではちょっと皮肉っぽく呟いてみたけど、本当は嬉しかったりするのよねぇ。私だって乙女だもん。

「ホント、どっかの誰かと大違い!」

 私は抱きしめていた枕を放った。
 あれから何度か雪村くんと会うことがあったけど、必ずクロちゃんが現れて、さっと私を雪村くんから隠してくれる。
 今日は口をパクパクさせて何か言いたげにしてたけど、うじうじうじうじしてる間に結局クロちゃんがやってきて、私と雪村くんを遠ざけた。
 クロちゃんは本当に紳士で守られてるなぁって感じちゃうんだけど、一言ごめんって謝ってくれれば、私だって雪村くんを許しやすいのに。
 雪村くんが申し訳ないって思ってるのは態度や表情ですぐにわかったけど、言ってくれなきゃいつまで経っても許せないじゃない。

「そのうち根負けして、こっちから気にしなくて良いよって言っちゃいそう」

 あんな捨てられた子犬みたいな目されたら、折れるしかない。けど、クロちゃんが覗きなんて卑劣なんだから許しちゃダメだって言うのよね。それもたしかにそうか、なんて納得しちゃったりもして。

「はあ……」

 深くため息を落としたとき、

「おい、小娘、居るか?」

 障子の向こうから声がかかった。
 月明かりに照らされて、畳と障子に人型の影が映る。
 小娘ってことは、

「毛利さん?」
「ああ」

 なんだろう、こんな夜遅くに?

「入るぞ」
「あ、はい」

 私は起き上がって、正座して毛利さんを出迎える。なんか、あの人苦手っていうか、緊張するんだよなぁ。私がこの世界に来てもうすぐ一ヶ月だけど、毛利さんとは特に会話もなかったし。整った顔してるくせに無表情だから、なんとなくとっつきにくいんだよね。
 障子がスーと開いて、毛利さんの金色の瞳が闇夜にキラリと光った。
 佇まいからして凛としていて、眉目秀麗とはこうゆう男性のことを言うんだなぁ、きっと。
 毛利さんは何故か、じっと私を見据えていた。
(なんだろう?)

 毛利さんは、私の前まで来ると、そっと膝をついた。毛利さんが私の膝近くに手を置いて、同じ目線になった。

(顔が近いんですけど!)

 心臓がどきどきと早鐘を打つ。

 毛利さんは目を見て放さない。私も何故か放せない。

(なんか怖い)

 自然と、ごくりと喉が鳴る。何か、嫌な予感がする。
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