私の中におっさん(魔王)がいる。

 * * *


「う……ぅう……」

 光がまぶしい。私は思わず目をぎゅっと瞑った。
(私の部屋ってこんなに光入ったっけ?)
 ぼんやりと思いながら、目を開けていく。

「……あれ?」

 見慣れない格天井。

「ああ、そっか……」

 げんなりした気分で起き上がる。

「私、異世界にいるんだった」

 深くため息をついて、頬を軽く叩く。

「憂鬱になっちゃダメだ。ほら、こうなったら逆転の発想で行こう! 異世界ライフを楽しんじゃおうじゃん!」

 よし! と気合を入れて、私は勢いよく布団から飛び出した。障子を開けて、太陽の光を浴びる。軽く伸びをすると、暖かな力が充電されるような気がした。

「……あれ? なんか太陽高い気がする」
「おはようございます」

 独り言を発した途端に、身近から声がかけられた。
 振向くと、縁側を月鵬さんが歩いてきていた。

「おはようございます」

 返事を返すと、月鵬さんはやわらかく笑んだ。

「お顔を洗いに行かれますか?」
「あ、はい。お願いします」

 月鵬さんの案内で縁側を歩いて行くと、外に井戸があった。昨日は気づかなかったけど、風呂小屋の脇にある。
 そこから水を汲んで顔を洗うらしい。

 頬に水をかけると、水はまだ冷たかった。少し身震いしたけど、おかげで目が覚めた。顔を洗い終わると、月鵬さんが布を渡してくれた。

「もうお昼過ぎですけど、昼食はどうなさいますか?」
「え、また私そんなに寝てたんですか?」
「ええ」

 私は自分自身に苦笑を送る。
(本当、ちょっと寝すぎじゃないかな? でも、まあ、しょうがないか。昨日は色々あって疲れてたし……ん? 昨日?)

「どうなさいました?」
「いえ! なんでもありません! 大丈夫です!」

 私は月鵬さんに片手を突き出して首を振った。残した片手は、ぼっと熱くなった頬へ。
(私、昨日毛利さんに……!)
 思い出してまた顔が熱くなる。
(なんで、なんで、私あんな夢見たんだろう!?)

 恥ずかしさでいっぱいになる。でも、なんでよりによって毛利さんだったんだろう? 毛利さんってたしかに顔は良いけど、無表情なくせに俺様な感じがぶっちゃけ苦手だし。

 その点で言って、風間さんは温和で優しいし、クロちゃんとか紳士だし、アニキも良い人だし……。雪村くんは覗き事件があるから、こんな夢を見ても不思議じゃないし……なんで毛利さんだったんだろ?

(まあ、でも夢でよかった! あんなのが現実だったら、怖くてしょうがないよ)

 しかも、ファーストキスがあんなロマンスの欠片もないようなのなんて、絶対イヤ!
「百面相は終わりましたか?」
「へ!?」

 くすくすと笑いながら月鵬さんが問い掛けてきた。

「もしかして、か、顔に出てましたか?」
「ええ、くるくると表情が変わってましたよ」

 月鵬さんは指をくるくると回す。
 カアア――と、顔が熱くなる。頬を押さえた私を見て、月鵬さんはまたくすくすと笑った。

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