私の中におっさん(魔王)がいる。

 * * *


 朝食代わりの昼食を作ってもらう間に、私は屋敷内を散策してみることにした。まず、中央を見て回る。といっても、お風呂は行ったし、トイレは普通の和式だし、部屋は私が使ってる和室しかないから、残ってるのは台所しかない。
 私はこそっと台所を覗いた。

 月鵬さんと柳くんが割烹着を着て台所に立っている。
 カマドがあって、その前に大きな木のテーブルがある。そこで月鵬さんが野菜を切っていた。

 カマドに薪をくべていたのは柳くんで、カマドにはまだ火が点いていなかった。
 柳くんは台所の奥からなぜか鳥籠(とりかご)を持ってきた。中には小さなドラゴンがいる。それを手のひらに載せて取り出した。

 ドラゴンのサイズはインコと同じくらいの大きさみたい。首と尾が長く、翼が生えている。
 そのドラゴンを薪の前まで持ってくると、ドラゴンがちょうどいいサイズの火を噴いた。

 火を噴き終わると、ドラゴンは「やったよ。できたでしょ!」と言わんばかりに尾を振って柳くんを見る。
 柳くんはポケットから肉の燻製のようなものを取り出し、ドラゴンに与えた。
 ドラゴンは満足そうに食べて鳥籠の中へと戻った。まるで犬みたい。
(この世界ではドラゴンで料理を作るんだ)
 感動しながら、台所から離れた。邪魔しちゃ悪いしね。

 私はスカートのポケットから呪符を取り出した。呪符を貰ったのは良いけど、結局一度も使えずにいる。
 使ってみようと思った矢先、次々と人が中央区画に現れて、代わる代わる話し相手になってくれるから、今まで使えずにいた。

 それに、ここにいると惰眠を貪りたい病がやってきて、ついつい寝てしまう。口やかましいお母さんと、遊びに誘ってくれる友達と、行かなきゃいけない学校という義務がなければ、私ってばいつまでだって寝れちゃうんだもの。
 我ながら呆れちゃう。
 でも、せっかく呪符も貰ったことだし、使わなきゃもったいない。

 私はまたポケットを探った。小さな時計を取り出す。
 別れ際に月鵬さんに、時計竜(ウロガンド)という時計を貸してもらった。この時計は淵の部分が自分の尾を銜えた龍になっていた。

 時計の数字の部分がウロガンドでは、十二星座になっている。
 十二が『羊』。一が『牛』、二が双子の『双』で、三が『蟹』四が獅子の『獅』で、五が乙、六が天秤の『天』で七が『蠍』八が射手座の『射』で、九が山羊座の『山』十が水瓶の『水』そして十一がうお座の『魚』だった。

 月鵬さんが双の時間にアラームが鳴るように、セットしておいたと言っていたので、あと一時間ある。
 どんなアラーム音なんだろう。ちょっとわくわくしちゃう。そんな風に思いつつ、水色の呪符とにらめっこする。
 中央の区画はぐるりと見て回った限り、別の区画へ行く廊下も縁側もなかった。中庭の先に建物の壁が見える。この中央区画は、完全に孤立しているみたい。呪符を使うか、壁をよじ登って越えない限り、ここには来ることも出来ないし、出ることも出来ない造りになっていた。
 だから呪符を使うしかないわけだけど……。

「う~ん。わからない!」

 適当に歩き回れば転移ってやつが出来ると思ったけど、何も起こらない。私は、縁側に腰掛けた。

「そういえば、あの日、東の区画から移動してきたんだよね?」
 だからここにいるわけだし。
「雪村くんどうしてたっけ? っていうか、いつの間に移動してたんだろ?」

 首を捻ったとき、

「何をしている?」

 後ろから声をかけられて、私は驚いて振り返る。
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