私の中におっさん(魔王)がいる。
「他に聞きたいことはないっすか?」

 私は気持ちを切り替える。

「えっと……そもそもどうして世界大戦って始まったんですか?」

 大戦さえ始まらなければ、爛も美章も大きな被害を出さずに済んだはずだもん。

「そっすねぇ……そもそもの原因は爛と千葉の不仲っすね」
「不仲?」

 翼さんはこくんと頷いた。

「隣国同士、元々仲は良くなかった二カ国っすけど、激変したのが十年前。どっちかの国の大使が殺されたとかなんとかで一気に関係が悪化して、で、爛の王が隣国の岐附と同盟を結んじゃったんすね」
「それって悪いことなんですか?」
「千葉側からしたら、欄に戦争の意思ありととってもしょうがないことっすね」
「どうして?」

 意味が分からない。同盟結んだくらいでなんでそうなるの?

「爛国ってのは、千葉国と岐附国に挟まれてんすよ。もし、千葉と戦うなら、岐附に攻め込まれる危険を考えなきゃならない。逆に岐附と戦うなら、千葉に攻め込まれることを考えなきゃならないわけっす。一方の国に侵略中に背後を取られるから」
「そっか。岐附と手を組んだってことは、千葉と戦争になっても背後から狙わないよっていう約束をしたってこと同じなんですね?」
「そっす」

 翼さんは軽く顎を引く。

「それで、爛と千葉が戦争をおっぱじめたわけっす」
「そうなんだ……」
「他の国からすればただの対岸の火事だったわけっすけど。俺達美章国軍人にとっては、かなり冷や汗もんだったっすね。早く終結してくれないかなぁって思ってました」
「どうしてですか?」
「長期戦になれば、好戦的な王のいる功歩が出張ってくることは明白だったっすからね。そこで、外交による政治的解決してくれれば良かったんすけど、うちの国はろくな政治屋がおらんのですわ」

 はあ~と深いため息をついて、わざとらしく翼さんは首を振る。不謹慎だけど、ちょっと顔がにやけてしまった。

「それで、出張ってきちゃったんですか?」
「うん」

 翼さんは大きく頷く。しぐさが可愛い人だな、翼さんって。

「とうとう功歩は出陣しました。当時、功歩は幾度となく美章国はじめ、岐附、瞑に進軍していましたが、岐附は大国のうえ海を隔てているし、前王の時代は強い兵がわんさかいたんで、中々上手いこと侵略できずにいたんす。けど、この時は岐附の軍は前王ほどの強さはなかったらしいですし、同盟関係にある爛は戦争中。援軍は送らないだろうし、我らが美章も当時、岐附と同盟状態にありましたが功歩が国土を蹂躙すればそれどころじゃない」
「そういう理由で、進軍を決心したんですか? 功歩は」
「でしょうね。十中八九」
「なんかムカつきます」
「まあ、やつらもそれなりの報いは受けましたよ」

 そう言った翼さんの声音は冷たい。一瞬だけ目が怖かった。だけど、次の瞬間には元の明るくて軽い感じの調子に戻っていた。
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