私の中におっさん(魔王)がいる。
「それはこの国の殆どがドラゴンの住処だからっす。多種多様なドラゴンがたくさんいるってことは、色んな武器がたくさんあるのと同じなんすよ」
「そっか」
「それに、それぞれの国には固有種ってのがいて、倭和はダントツで多い。爛が怠輪に後れを取ったのは、怠輪の固有種ドラゴンを把握していなかったってのが大きな要因なんすよ」
「なるほど……。それほど、ドラゴンの情報って大事なんですね」
「そうっす」

 翼さんは深く頷いた。

「でも、千葉も襲われたのに被害が抑えられたのは何でですか?」
「被害が抑えられたっていっても、かなりの打撃は食らったらしいっすよ。爛と同じく、不意打ち喰らったわけっすからね。でも、爛と違った点は王都が怠輪に上陸されたところから遠かったことと、多少なりとも情報があったってことでしょうね」

 そっか。

「たしか、千葉と怠輪は国交があるんですよね」

 一部らしいけど、ないよりはマシってことかな。

「俺が思うに、それはあんまり関係ないんじゃないっすかねぇ?」
「どうしてですか?」

 首を傾げた私に翼さんは苦笑を送る。

「千葉は怠輪に密偵を送ってたんじゃないかってのが有力っす」
「密偵って、スパイ!?」
「スパ?」
「いえ、なんでも。こっちの話です!」

 こっちには、スパイって言葉はないのか。

「怠輪ってすっごく上陸しにくい土地なんすよ。海も特殊だし、どうやって侵入してたのか不思議なんすけど、密偵を送ってなきゃ応戦できた理由が見つからないんすよねぇ」

 自分に言うみたく呟いて、翼さんはすっと私に視線を向ける。

「まあ、爛が滅ぼされかけたってのはそういう理由で、被害状況が一番ヤバかったのはうちの国なんすよ」
「それは……なんていうか」

 被害が一番酷かった国の人に思い出させるようなことを聞いちゃって、なんか悪いことしちゃったな……。

「気にしないでください。うちの国は案外慣れっこなんすよ」
「え?」

 驚いてばっと顔を上げると、翼さんはニカッと笑った。

「俺が生まれるず~っと前から戦争ばっかなんすよ。先の大戦だけじゃなくて、美章国ってのは岐附と功歩に領土を侵されちゃ、取り返すの繰り返しなんす。今でも返還されてない土地があるくらいで」
「そんな……」
「貴女がそんな顔することはないっしょ~」

 ぽんと肩を叩かれる。翼さんって、やさしい。戦争ばっかりで辛くないはずないのに……。やさしすぎて、泣きたくなった。
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